【実施報告】第2回「公会計と地方財政の勉強会」前編 財政収支見通しの重要性

第2回「公会計と地方財政の勉強会」で、兵庫県多可町から「自治体経営における財政収支見通しの重要性」についてお話しいただきましたのでご紹介します。

 はじめに

みなさまは地方公共団体の財政収支が将来どうなっていくかを考えたことはあるでしょうか。当然、地方公共団体の財政課に所属されている皆さまは日々これに頭を悩ませ、実際に策定もしている、という団体も多いと思います。

私もいろんな団体で財政収支見通しを目にする機会が増えてきました。

公会計と言う点では、以前からニュージーランドの地方政府で義務付けられる、将来10年間の貸借対照表や財務業績報告書について着目して来たところです。

しかし、財政収支見通しの策定の仕方や、実際の実務上の課題についてお聞きする機会はありませんでした。

昨年より、大東市の川口財政課長と、大阪市大の遠藤教授、私(中川)で公会計と地方財政の勉強会を開催しています。勉強会概要がわかる資料はこちら(マッセ大阪寄稿文です)

miyukicpa.hatenablog.com

今回の勉強会(第2回 平成31年2月)では、兵庫県多可町のお二人と大川公認会計士に講師として登壇いただきました。

兵庫県多可町より、「自治体経営における財政収支見通しの重要性」についてお話いただきましたので、前編としてご紹介します。

ちなみに、第1回(平成30年10月)は、川口課長より「公務員に簿記の知識は必要か」、中川より「財政の裏付けある総合計画策定の必要性について」についてお話させていただいています。

そのころはまだブログを開設していなかったので掲載できていないのですが、今後掘り起こしてご紹介できればと思っています。

なお、この勉強会での内容は、自分の所属する団体を代表する見解ではなく、個人の見解であることを前提としたものであることをお断りしておきます。

 財政収支見通し(財政計画)とは

兵庫県多可町は、地方公会計では日々仕訳を導入しており、今回登壇された財政課のお二人(うち1名は財政課より異動)は非常に勉強熱心で、地方公会計の研修会等でも何度かお会いしたことがあります。

多可町では平成30年度から平成39年度までの財政収支見通し(財政計画)を試算されました。

策定にあたっては、関西学院大学稲沢克祐先生の「自治体の財政診断と財政計画」を参考にしたとのことでした。

Amazonで見つけました。(こちら

2013年と少し古いですが、あまりこのような財政計画の本がなさそうなので、早速発注し、手元に届きました。見たとたん、わくわく。このような分析の本は大好物です。

稲沢先生の本の244ページに、財政収支見通しの考え方として、インパクト分析(新規政策の実施や既存政策を変更した場合に財政的な影響がどうなるか分析する)とギャップ分析(現状維持の体が続く場合の財政収支予測し、収支不足等のギャップを解消するための解決策を分析する)、2つの併用方式の3つについて紹介があり、多可町では併用方式を採用しています。

多可町の財政収支の算定方法

歳入額と歳出額の見込み数値については、各課と協議の上、各種計画と連動させるようにしています。

例えば人件費であれば人事課と協議し、職員適正化計画と連動、投資的経費であれば事業課と協議し、総合計画、各種実施計画と連動させているとのこと。

ここで、総合計画や実施計画と連動させると、歳出はもっと膨らむはずでは(総合計画も実施計画もそんなにミニマムではないはず)という疑問が浮かび、 質問時間があればそれを聞いてみようと思っていたのですが、時間がなく聞けず。

あとからお聞きしたところ、当然そのままだと収支不足になるので歳出枠を設定しこれに見合う歳出になるよう調整しているとのことです。

 

さらに、多可町では財政力指数が0.33と低く普通交付税に頼らざるを得ず、また、これらは財政規律である公債費比率や将来負担見込みにも直結することになるため、基準財政需要額をいかに精緻に見込めるかがポイントとなるとのことです。

深化していく財政収支に見通しにするために

最後に、深化していく財政収支に見通しにするために、 大事だと考えるのは以下の点だとのこと。

・情報の集約と共有

関係部署のあらゆる情報を数値で集約して財政収支見通しを作成するということ。

⇒口で言うのは簡単だがこれがどんなに大変か、とおっしゃっていましたが、網羅的に情報を集めるだけでも大変そうです。(以下、⇒は中川のコメントです)

私の経験で言うと、最近ある2つの団体から委員就任を頼まれたのですが、1つは就任する事業そのものの意義が見い出せなかったので、その事業は総合計画のどこに位置づけられていますかと聞くと、総合計画にも個別計画にも載っていないということ。

もう1つは施設の建替え計画の委員。これは公共施設等総合管理計画のどこに位置づけられていますかと聞くと、おととし策定したばかりだというのにその時には建て替え計画は浮上していなかったのでどこにも載っていませんとのこと。

計画に載っていないものが雨後の筍のように出てくると把握のしようもありません。

多可町は決してそうではないと思いますが、このように位置づけも不明確な事業等の情報を網羅的に把握するのは至難の業でしょう。

どこかの自治体の方がおっしゃっていましたが、総合計画に記載していない事業はきっぱりやらないことにしているとのこと。

そういう規律ができていないから、ぽろぽろ隠し玉が出てくるのでしょうか?

 

・財政指数による規律(目標)の設定

実質公債費比率は将来負担比率といった各種財政指標の規律内(目標値)で経営できるよう歳出改革と歳出枠を決定すること。

⇒ 多治見市や箕面市が例として挙がっていましたが、いずれもいわゆる財政健全化条例を設け、財政指標目標を設定している団体です。

多治見市 中期財政計画(h20~H33)

多治見市は、前回私も報告しましたが、4年間の実行計画で事業費を見込んでいます。

第7次多治見市総合計画 実行計画(h20~h23年度)

 

・事業選択を明確化と共有化

歳出枠内でどの事業を実施するのか、事業の優先順位を明確にし、庁内で共有化

⇒職員の理解を得て調整するのが一番大変ということですが、心情的なもの、利害関係もあり、これは大変だと思います。

ただ、事業の優先順位をつけるのは、財政の仕事というよりは政策や企画の仕事で、それこそが財政の裏付けのある総合計画であり、全国で流行しているSIM2030なのだと思うのですが、違うでしょうか。

ちなみにあとからお聞きしたところ、多可町の場合は、財政課が行革の進捗管理も行っている財政課が、財源の視点と共に事業の成果や費用対効果等の視点で話を進めることが出来るので、事業の優先順位を結果的に調整しているということでした。

・ 公表(議会・住民)・・サイクル化

実施予定事業とともに財政収支見通しを議会に説明し、これを元に予算編成、予算執行と行財政改革を実行し、財政収支見通しを修正

⇒これは非常に大事ですね。どちらかと言うとお金が必要なものに対する要望が多いと思いますが、それを実行すると財政がどうなるのかをしっかり情報共有することが大事だと思います。

以上が概ねの内容で、報告者から参加者に対していくつか質問が出ていました。

例えば、財政調整基金のあるべき残高をいくらぐらいで考えておけばいいのか、という質問に対し、大東市川口課長より、団体の規模にもよると思うが、大東市では標準財政規模の2割と設定しているとのことです。 他の団体では5.5%のところもあれば、12.08%というところもありました。

12.08%というのは、類似団体平均だそうです。

また報告者より、財政指標を設けていきたいと考えるが、ほかに考慮すべき財政指標として何かあるか、という質問があったので、私から、秋田県湯沢市が算定されていた「更新資金準備率」についてお話しました。

平成28年度財務諸表の公表と分析 P16

湯沢市では、更新資金準備率という指標を設けています。

計算式は、減価償却累計額に対する資金(基金・積立金)の割合ですが、総務省のマニュアルにも載っておらず他の団体でも見た覚えがありません。

しかし非常によい指標では、と思います。

というのは、 減価償却累計額というのは固定資産の老朽化を表しており、耐用年数経過後、物価変動がないものとして、全く同じ仕様でその施設を更新するのであれば、減価償却累計額見合いの更新費がかかることになります。

そのため、 減価償却累計額すなわち物価変動等がない場合の更新必要額に対し、現段階でどれぐらいお金があるかを見るのは重要だと思います。

どのぐらいの割合であれば健全化ということは一概には言えないと思いますが、ある程度の留保がなければ、更新を行う場合に起債に頼る割合が増え、将来の世代の負担が増加します。

これまでは人口が増加傾向にあったので応分の負担だったかもしれませんが、人口減少局面においては地方債の発行額が同じだとしても、将来世代が一人当たりで負担する金額は増加します。

地方は基金を溜め込みすぎているという批判がありましたが、財政健全化法の指標のように、これより少ないと危険というようなあるべき水準が設定できると非常に良いのではと思いました。

なお、湯沢市では減価償却累計額に対する資金(基金・積立金)で算出していますが、貸借対照表より基金のうち減債基金の金額が明示されているので、それは除いた額で算定する方がいいかと思います。さらに言うと、厳密には財政調整基金やその他特定目的の基金は必ずしも更新に充当できるわけではないため除いた方がいいのかもしれません。そうすると、ほとんどの団体で更新のための財源がないことが明らかになるかもしれませんが。

 

ちなみにこの話に付随して、臨時財政対策債を発行する一方、 基金を積み増している団体があるが、借りる金利の方が高いため臨時財政対策債を上限まで発行すべきでないという話も出ていました。

それはそのとおりで、そんな話が出ること自体が意外だったのですが、運用や利回りを自治体ではあまり意識しないのでしょうか?

私も建物の附属設備の修繕など、細かい部分をどこまで財政収支に織り込んだのかなど、ほかにもお聞きしたいことがありましたが、時間が来たのでここで終了。

財政収支見通しはお手本になるものでもなくこれからとおっしゃっていましたが、成功事例だけでなく、苦労していることなどの生の情報が役に立つと思います。

多可町さん、予算策定等でお忙しい中資料を準備し、発表していただきましてありがとうございました。

第2部:後編につづきます。

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