シンガポール研修 学習編

はじめに

研修で、シンガポールに行ってきました。

これは日本公認会計士協会が、過去に受けた寄付金を元手に、海外経験の少ない会員に対し海外で学ぶ機会を与えることを目的に毎年実施しているものです。

たまたまこの研修の募集を目にし応募したところ、運よくメンバーに選んでいただきました。

シンガポールでの研修はもちろん英語。

また、研修のハイライトとして、英語のプレゼンテーションを用意し、現地会計事務所の会計士との意見交換をする時間があります。

これに向けて、約2ヶ月間、英語の勉強やプレゼンテーションの準備を進めてきました。

研修に行ったのは私を含め6名のメンバーです。

全て会計士です。

滞在期間は1週間で、南洋理工大学(日本ではナンヤン工科大学ともいわれる)が提供するプログラムに参加しました。

以下、研修の様子をご報告します。

 

シンガポールの強さの秘訣 -1日目の学び

午前中はウェルカムセッションと、シンガポールへの投資をテーマにした授業。

授業はこんな様子です。

午後からは、日本からシンガポールに進出している佐藤工業の地下鉄建設工事現場を視察しました。(写真はわかりにくいですが、現場を外から撮った写真です)

普段なかなか聞くことのできない、日本人駐在員の方の現地での苦労話を聞くことができました。

地下鉄の建設現場を見たのも初めてで、壮大な工事にびっくりしました。

 

シンガポールに来て感じたことは、政府の力の強さです。

教授の話からも、政府がかなりの力を持っていることが伺えました。

佐藤工業の方のお話でも、公共工事などで家がかかるとき、立退かないことはあり得ないのだそうです。日本ではたった数軒のために工事が進まないというのはよく聞く話。

また、地方自治体というものがありません。

国が小さいので、国家だけなのだそう。

そのうえ一党独裁ですから、政策に妥協がありません。

効率的で、思い切った政策が取られています。

今はインフラ投資の時期だそうで、MRTという地下鉄がどんどん拡張されています。

インフラ投資が一段落すれば、教育、ITに投資していくようです。

シンガポールは非常に国土が小さく資源がありませんが、貿易港としての立地を最大限に生かしつつ、低い法人税率や規制緩和などの徹底的な戦略により海外からの投資を呼び込むことで、高い経済成長を遂げてきました。成長率は落ちてきているといいつつ、2018年のGDPの実質成長率は3.2%と、日本の1.2%と比べると非常に高くなっています。

いかに資源のない国が自国の強みを生かして経済成長を遂げていくか、また外から人やお金を呼び込むか、というのが一番優先されているように感じます。

地震や台風もないそうで、自然災害大国の日本としては羨ましいところです。

 

シンガポールでの暮らしの実情 -2日目の学び

午前中は南陽理工大学で経済に関する授業を受け、午後からはシンガポールの中心街にある内部監査人協会と、中国系の会計事務所LO HOCK LINGにて、現地の会計事務所の実情や仕事の内容をお聞きしました。

写真は内部監査人協会にて。

授業後は、シンガポールに赴任している元職場(KPMG)の後輩に会いに行って来ました。

KPMGでは、お客さんと打ち合わせしたり、食事ができるグラブハウスがあり、そちらでおしゃべり。元気そうで何より。

さらにそのあとは、日本人会計士、弁護士駐在員との懇親会がありました。

本には載っていない、いろんな裏話が聞けました。

みんな一様に、シンガポールは住みやすく帰りたくないと言っていたのが印象的でした。

ただし、駐在員で一定のサラリーと住居が確保されていること(あるいは自分で事業して稼ぐ力があると)、という条件付きです。

住みやすい理由は、便利さや日本にも勝るとも劣らない安全で清潔な環境、気候の良さ、多様性を受け入れる風土、仕事のしやすさ、行政の効率の良さなどがあるようです。

ほとんどの行政手続きがオンラインでできるようで、たまに日本に帰るとその効率の悪さにいらいらする(のであまり日本に住みたいと思わない)、なぜ日本の役場はあんなに非効率なんだと言われましたが、一党独裁で国しかないところと、連立政権でさらに自治体が1700もある日本では物事の進め方の前提が違うのだろうと思いました。

そのようにお伝えすると、隣国のインドネシアはたくさんの島で構成されていて、非効率な部分が多々あるようで、やはりシンガポールの効率の良さは、一党独裁、また国しかないコンパクトさによるところが大きいのだと思います。

ただ、日本がもたもたしている間に、世界の電子化はさらに進み、日本は世界に置いていかれるとかなり危機感を持ちました。

また、政府がところどころにホーカー(フードコート。とてもリーズナブルな値段)を設置しています。

シンガポール駐在の後輩の話によると、各家庭でご飯を作らず、作る場所を集中することで、電気の使用量を抑えるためだとか。

ここでも効率性のために政府が介入。

シンガポールの大部分を占める中国人は、あまり家でご飯を作らないと聞きます。もともとの国民性、文化も背景にあるのでしょうが、政府がここまで介入するというのには驚きです。

一方、物価は高いです。

特に賃貸マンションなどの住居費や教育費が高く、外国人向けだと1月あたり2DKで35万円ぐらいが相場だそう。

プライベートスクールは1月あたり15万円。公立はもう少し安いそうですが、とにかく学力社会で学校が終わってからも塾に通わせるのが普通で、教育費がばかにならないそう。

シンガポールの出生率は1.2人で日本の1.4人よりさらに低く、少子化が深刻ですが、住居費や教育費を考えると、無理もないように思います。

また車、たばこ、お酒の値段が高い。高い理由は、これらを抑制するため、政策的に税が高いためです。車は本体価格300万円であれば、自動車取得税が同じくらいかかる、と聞きましたが、調べているとGST(消費税に相当)なども含めると、さらに高いよう。

たばこは1箱1000円くらい、お酒の税率は日本の1.5倍くらいのようです。

一方、法人税や所得税は低くなっています。

法人税は17%、個人所得税は最高で22%、日本は56%(住民税含む)なのですごい違いです。

これも企業や裕福な人をシンガポールに呼び込もうとする政策によるもの。

一方、低い税率と引き換えに、社会保障がほとんどありません。

年金制度もないので、自分で準備する必要があります。

裕福な人にとってはよい国ですが、社会的弱者にとっては厳しい国ではあります。

徹底的に管理され、裕福な人にとっては住みやすいシンガポールと、なんとなくいろんなところで抜け穴があって、それほど所得が高くなくても豊かに暮らす道が残っている日本だと、日本の方がいいなあ、というのが私の感想です。

 

南洋理工大学(ナンヤン工科大学)見学 -3日目の学び

午前中はシンガポール会計基準について。

南洋理工大学の卒業生でEYのパートナーが講師でした。

下の写真は授業の合間に出していただいたリフレッシュメンツ。

シンガポールではミーティング等の合間にお茶とこのようなリフレッシュメンツを食べるのが一般的だそうです。

毎回3種類ずつ出て食べすぎてしまいます。

 

午後からはIRAS(日本の国税庁のような組織)と南洋理工大学のメインキャンパスへ。

この蜂の巣のような建物は何でしょう。

答えは教室で、直射日光が当たらないような設計になっていて温度が一定に保たれるのだそう。

それぞれの部屋にランダムにテーブルが置かれ、プロジェクターと沢山のスクリーンが設置されてました。

そして、建物の真ん中は吹き抜け。風が吹き抜け、居心地の良い空間。

南陽理工大学はタイムズの2018年のアジア大学ランキングで第5位。

東大が8位なので、非常にレベルの高い大学です。

生徒数は32,000人。下の写真は大学の全体像の模型ですが、その広さにもびっくりでした。

 

私たちが授業を受けたのは、上記のメインキャンパスではなく町中にある大学の卒業生向けの施設。

なんとプールやエステ、結婚式のできる会場がある、豪華な施設でした。

ランチもそちらのレストランでいただきましたが、高級な感じのところでした。

 

現地公認会計士との意見交換 -4日目の学び

シンガポールの女性会計士の割合は60%。

それに対し日本の女性会計士の割合は14%しかありません。

*写真はPWCの調査資料からの引用

 

なぜこれだけの差が出るのでしょう。

それを確かめるべく、大学がアレンジしてくれた現地会計事務所の方との意見交換で、日本人女性会計士の現状についてプレゼンをしました。

 

分かった事は、シンガポールで会計士はとても人気のある職業だと言うこと。

日本では会計士の知名度自体が低く、また会計士の資格は女性にとって有利だということがあまり知られていません。

そしてシンガポールでは、非常に安いコストでフィリピン人などのメイドさんを雇えたり、そもそも家で料理をする習慣がなく、家事の負担が少ないという違いもあります。

あと、男性は兵役があるため、アイロンがけも自分ですると、男性会計士達が胸を張っておっしゃっていました。

そもそも背景となる環境が全く異なることが分かったのですが、今回プレゼンを行った対象者 7つの監査法人のトップのうち 3名が女性であることには非常に刺激を受けました。

日本でもこれが普通、という状況になると、働きやすさも大分変わってくるような気がします。

 

日本と少し異なる公益法人の制度と監査 -5日目の学び

南洋理工大学での授業は最終日です。

午前中は公益法人の会計、午後は中小企業について講義を受けました。

日本では公益的な法人として、公益法人、NPO法人、社会福祉法人、宗教法人など細かく分かれており、適用される法令や所轄官庁がそれぞれ異なります。

その結果、適用される会計基準も、会計監査の対象となるかもそれぞれ異なっています。

シンガポールでは、それらは一つのチャリティ法が基本となり、規模等で一定の分類がなされ、税務上の恩典や会計監査の対象となるかが決まります。

シンガポールでは、一定の金額規模以上の団体で会計士等の監査が必要となります。

日本より金額基準は低く、単に決算書が基準に準拠しているかだけでなく、目的にかなった支出がされているかも監査の対象となります。

私も以前公益法人の監査をしていたことがありますが、単に会計基準に従っているだけの監査にどれだけの意味があるだろうと思っていました。

シンガポールの監査は、本来あるべき監査だと思いました。

 

授業は金曜日で終わり。

最後の方には大分英語にも慣れ理解できる部分が増えました。

温かく迎えてくださったシンガポールの方々に本当に感謝です。

 

クレア訪問 -6日目の学び

土曜日はメンバー全員延泊し、フリーデーを過ごしました。

せっかくなので、以前からレポートをよく利用させていただいている、クレア(自治体国際化協会)を訪問させていただくことに。

以前シンガポールクレアに赴任されていた方のつてを辿り、所長に面会させていただきました。

(クレアの案内はこちら

シンガポール事務所は、ASEAN、インド、スリランカを所管し、地方自治体の海外活動、観光誘致、海外販路活動などの支援を行っているとのこと。

職員数は、総務省をはじめとし府、県、区、市などから派遣されており、現地スタッフ含め27人の大きな事務所となっています。

クレアの取組みについて、いろいろ教えていただきました。

クレアでは様々な調査もされていますが、各国の人への聞き取り調査によると、日本への関心として、日本食、テーマパーク、温泉、アニメ、買い物、ドライブ、自然景観、風景などが上がるそう。

特にシンガポール困ったこと、不安なこととして、交通機関の複雑さ、交通費の高さ、WIFI環境が整っていないこと、英語が通じないことなど。

これは耳が痛い。

設備はすぐには無理としても、困っている外国人の人を見たら助けてあげようと思ったのでした。

また、よく利用させてもらっていたクレアレポートは、職員の人が書いていらっしゃるとのこと。すごく身近に感じられるようになったのも収穫の一つでした。

 

おわりに

とても楽しく実りのある研修でした。

しかし英語力の無さと、これからの英語の必要性を実感。

日本にいると非常に居心地がよくて、英語の必要性も感じませんが、一度海外から日本を見てみると、日本の良さも非常によくわかるのですが、それ以上に、日本はこのままではいけない、私自身、このままではどんどん世界に取り残されると非常に危機感を持ちました。

世界中の人とコミュニケーションを取ったり情報を得たりできるようしていきたいと思います。

 

後編の「シンガポール研修 観光編」もぜひご覧ください。

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