【参加報告】JAGA会員向け「地方公会計の脆さ」

はじめに

2019年6月15日に早稲田大学で開催された、政府会計学会(JAGA)に勉強に行って来ました。

数年前からJAGAの会員ですが、関西大学で開催されるものへの参加が中心で、6月に早稲田大学で開催される会員総会も含めたこの会に参加するのは初めてです。

 

全体プログラムは次のとおりでした。(敬称略)

【自由論題】

第1報告 細川甚孝(合同会社政策支援代表)

「会計情報を基盤としたEBPMにおける施策/事業の改善モデルの検討」

第2報告 佐藤綾子(富山国際大学)

「富山県の観光戦略~総合計画と予算・決算のリンケージから見る課題」

第3報告 大川裕介(関西大学博士課程、公認会計士)

「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性について」

 

【第6回会員総会】

 

【統一論題】「わが国公会計の脆さ」

司会・解題 柴 健次(関西大学)

第1報告  大塚成男(千葉大学)

「地方公会計における財務書類の空洞化」

第2報告  高橋啓介(財務省主計局法規課公会計室)

「国(中央政府)における財務書類の活用の取組と課題」

 

「会計情報を基盤としたEBPMにおける施策/事業の改善モデルの検討」 細川甚孝氏(合同会社政策支援代表)

細川氏からは、ご自身のコンサルティング経験から地方公共団体におけるEBPMの進め方についての報告。

そもそもEBPMとは、というところからなじみのないところですが、EBPMとは

「Evidence-Based Pollicy Makingの略で「政策オプションの中から政策決定し選択する際に、現在も有益なエビデンスの誠意ある明確な活用」をすること OECD(2007)」

 

そして、エビデンスはデータとは異なるとのこと。

エビデンスとは、「因果関係にかかる命題で実証的検討を経たもの」ということだそうです。

ただ、一般的にはデータのことをエビデンスのように扱い、勘だけでなくデータ(根拠ある)をもとに議論しよう、というように言ったりしてしまいます。

 

興味深かったのはそのあとの質疑応答でした。

行政では、行政の無謬性、すなわち行政は間違いを侵さないという神話がある。

よく成功例を集めこれを周知するといったことはされるが、失敗事例は共有されない。

失敗の事例を集め、これを共有することが大事。

また、小さくやってみてうまくいかなければ改善するという小さなPDCAサイクルが必要。

ゆとり教育などは、実験ベースでまず始めるべきであった。

 

このような話が出ていました。

失敗事例、そのとおりだと思います。

私も自分の仕事の上でかなり短いサイクルでトライアンドエラーを繰り返しています。

行政は物事が一年スパンなので、なかなか失敗が許されないですね。

しかし、 小さな範囲で試行実施という上手なやり方をやっている団体もありました。

 

あとは、やはり失敗事例を共有する仕組みですね。

私が知る限り、 成功事例を共有するといったものが主流ですが、もっと非公式に失敗事例を共有し合うような勉強会などがあってもいいのではと思いました。

 

「富山県の観光戦略~総合計画と予算・決算のリンケージから見る課題」佐藤綾子氏(富山国際大学)

佐藤氏の富山県の観光戦略の報告では、総合計画や観光戦略、それらに示されるKPI、予算書などをたんねんに調べた上で、次のような課題があると指摘されています。

【PDCAにおける課題」

・計画段階から政策ー施策ー事業目標を階層的に整理する必要性

・担当部課間の目標の共有

・総合計画の段階から事業費を明確にする必要性

・事業活動と事業費の関係の明確化

・国の観光戦略との関係性の明確化

 

【情報開示における課題」

・政策目標から事業への関係、予算、決算を統合的に把握しうる情報開示の必要性

・内部利用・外部利用のいずれにおいても、共通の情報活用により課題、目標意識を共有することが重要

 

上記を、県の公表する膨大なデータを示しながら説明いただき、非常にわかりやすかったです。

今年私が担当する包括外部監査では、観光をテーマにした団体があるので、富山県の観光戦略のまとめと課題は大変参考になりました。

 

「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性について」大川裕介氏(関西大学博士課程、公認会計士)

大川氏からは、「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性について」

こちらは、第2回「公会計と地方財政の勉強会」でも報告された内容となっていますが、言いたいことが絞られ、随分分かりやすくなっていました。

【実施報告】第2回「公会計と地方財政の勉強会」後編「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性」~Australiaにおける先行研究及び事例を踏まえた考察~

 

番外編「地方公会計の脆さ~公会計情報の更新~」天川竜治氏(宇城市総務部次長)

天川氏は当初登板予定でしたが、ご都合により欠席され、関西大学の柴先生より資料の配布と簡単な説明がありました。

熊本県の調査によると、地方公会計の財務書類を自前で作成しているのは2団体、業務委託しているのが11団体ということです。

また固定資産台帳の更新を自前で行なっているのは5団体、業務委託しているのは9団体とのことです。

さらに、固定資産台帳を活用していくためには耐用年数が異なる資産ごとに台帳登録する必要がありますが、熊本県の調査によると

・分かる範囲で登録している

・一体的な資産として最長の年数で登録している

・会計事務所に任せている

といった回答があり、固定資産台帳の活用に至るまでにはまだまだハードルが高いことが明らかにされました。

 

「地方公会計における財務書類の空洞化」千葉大学 大塚成男教授

まずはじめに、大塚教授の問題意識が述べられました。

・地方公会計が空洞化している。

・ほぼすべての団体で財務書類が作成されているが、はたして機能しているのか。

・地方公会計の出発点は、経済戦略会議「日本経済再生への戦略」(1999.2)

しかし、実際にはほとんど機能していないのではないか。

 

以下、報告事項の概要です。

【財務書類に期待された役割と現状】

①政策の事後評価

・財務書類や固定資産台帳の状況を公共施設等総合管理計画または個別施設計画に反映するなど、公共施設の適正管理に活用 83団体(4.6%)

・決算審査の補足資料とするなど、議会における説明資料として活用 130(7.3%)

(いずれも2018年3月末時点)

 

②団体間比較

・ほとんどされていない。

(千葉県の例)

調査対象37団体中、団体間比較を提示しているのは0

 

③資産情報に基づく将来計画

・公共施設等総合管理計画には限界(修繕、建替えが画一的、単価が一律など)

・固定資産台帳を活用し、将来計画を策定していくべき

 

④コスト情報に基づく事業評価

・コスト=行政活動で費消された人的資源・物的資源の量

・コスト情報を用いた事業評価はほとんどされていない

 

【実情における空洞化】

①開示情報の縮小

・行政目的別コスト情報が任意となってしまった。

・附属明細書、注記を開示していないところが多い。

 

②情報開示の停滞

・学生が全部の団体のHPを調査したところ調査対象 815団体中、サイトでの公開が確認された団体622団体(76.3%、2019年1月末時点)

 

③作成外注による弊害

・自団体の数値の意味が把握できていない(意味が分からなければ財務管理のツールとして使いようがない)

 

④期末一括仕訳による財務書類と伝票との断絶

・簡便作成法によっている場合、財務諸表に関する原因分析ができない

 

⑤広域化への対応不足

・複数の団体による共同運営に移行していっており、一般会計等財務書類や全体会計財務書類では実態を捉えることができなくなっている

 

【地方公会計の脆さ】

①上(総務省)からの改革であることの弊害

・団体に財務書類を活用するインセンティブが働かない(財務書類の作成自体が目的化)

 

②地方公会計独自の評価基準の欠如

・評価の基準・手法が未確立

 

ここで大塚先生が、自治体が破綻でもしない限り、財務諸表は活用されないのでは、とおっしゃったことにひっかかってしまいました。

その後の質疑応答で

「破綻しそうな自治体にかかわっているが、 財務諸表が分析されてもいないし、財務諸表から財政が危険な状況であることは全く分からない。何を持って自治体が破綻すると財務諸表が活用されるとおっしゃっているのか」

と質問したところ、 言葉足らずであったとの断りがあった上で、

「歳入より歳出が超過することにより自治体は破綻するのであり、どのように改善していくべきを考える上で財務諸表が役に立つ」

とのことでした。

柴先生からは、では中川さんとしてはどうしていくべきと考えるか、と言われたので、自治体は50年、60年といった耐用年数を持つ資産を多数保有しており、この保有期間にわたるような超長期の財政シミュレーションが必要と考えていると答えました。

 

少し脱線して、その後の質疑応答の続きになりますが、パブリックサービス研究所と精華町で小学校費、中学校費について予定財務諸表を作成したという話があり、 将来の財務諸表をシミュレーションし、将来収支を見通したうえで、今しなければならないことを考えることが解決策の一つであるという提示がされました。

 

柴先生より、このことについて今後この学会で発表してください、と言われました。

ちょうど私も財政収支計画やニュージーランドの地方政府で作成されている将来10年間の財務諸表について理解を深めたいと考えていたところでした。

発表するかわかりませんが、将来の財務情報の推計についての研究をしていきたいと思います。

 

「国(中央政府)における財務書類等の活用の取組と課題」財務省主計局法規課公会計室 課長補佐 高橋啓介氏

国の財務書類作成の取組みは平成11年2月の「日本経済再生への戦略」がきっかけとのこと。

そして、平成12年10月、初めて国の貸借対照表(試案)が作成されました。

 

その後、省庁別財務書類の作成、国の財務書類とその範囲が広がり、平成27年度からは個別事業のフルコスト情報の開示の取り組みの試行がなされています。

 

個別事業のフルコスト情報の開示の取組みのきっかけは、財政制度等審議会のWGから「財務書類等の一層の活用に向けて(報告書)」(平成27年4月)が公表されたこと。

この報告書の提言によると

・政策別コスト情報が十分に活用されているとは言い難い

・実務に役立つ活用方法を検討することが重要

とされています。

 

これにより、予算編成などに活用することを目指した個別事業のフルコスト情報開示の取組みが始まります。

 

初年度(平成27年度)は各省庁の代表的な24事業についてコストを算定。

しかし初年度と言っても、過去3年分のフルコスト情報を算定し開示しています。

 

2年目(平成28年度)は41事業に拡大。

3年目(平成29年度)はさらに60事業に拡大。

4年目(平成30年度)は、予算の PDCAサイクルに役立つフルコスト情報の提供を目的とし、予算の査定担当部署(主計局予算係)と連携しながら、 フルコスト情報の有用性が高いと考えられる65事業を選定。

 

また新しい試みとして、「フルコスト分析シート」を試作。

このフルコスト分析シートには、過去3年の決算と、 予算要求ベースのフルコスト情報、 査定案などの情報が一覧で表示されています。

 

下記のようなシートです。

出典:「個別事業のフルコスト情報の開示について」(平成31年1月 財務省主計局法規課公会計室)

 

そして非常に素晴らしいのが、このフルコスト分析シートを作成し、どのように予算編成に役立てたか、改善点などについて、 予算編成後に主計局予算係等からアンケートや面談により意見を聴取しているということ。

(回答数 主計局予算係161名、各省庁89回答)

 

この取組みにおける PDCA をしっかり回しています。

 

主計局予算係等への意見聴取結果は下記のホームページに掲載されていますので、是非そちらをご覧ください。

「個別事業のフルコスト情報の開示について(平成31年3月)」財務省主計局法規課公会計室

 

また、今後の活用に向けた課題として、以下のような話がありました。

・個別事業のフルコスト情報の開示が省庁内において十分周知されていない

・フルコスト情報作成の作成負担の軽減が必要

・フルコスト情報が予算編成にそのままでは使えない場合がある。(独立行政法人の運営費交付金の支出などは、コスト情報だけでは予算編成には不十分である、など)

・予算削減につながる恐れがあり、各省庁にとって取組みを行うインセンティブがない。取組み自体にネガティブな印象を持たれてしまう懸念がある。

 

平成30年からはさらなる取り組みとして、各省庁の会計課や主計局予算係等を訪問し、個別に説明に回られています。

「ひざを突き合わせて意見交換をし、納得してもらうことが必要」

とのこと。

このような地道な努力があってこそ、取り組みが着実に発展してきたのだと思います。

今回、高橋氏の講義を聞き、このような苦労があったことを初めて知りました。

この話が聞けただけでも、わざわざ東京に来てよかったと思いました。

 

そして、 国の公会計の取組みは、やはり地方公会計とはまた違うなぁという感想を持ちました。

国の公会計の活用は、予算編成と国民への情報開示の大きく二つに絞られているように思います。

一方、地方公会計の活用は、どちらかと言うとマネジメントへの活用が期待され、活用方法も多岐にわたっているように思います。

特に資産マネジメントへの活用が期待されているところで、資産の把握や資産の老朽化などの資産情報による分析が重視されているように思いますが、国の公会計の資料では資産情報がなく、コスト情報のみとなっています。

 

どちらがいい悪いということはないのですが、国の取組みについて、良い点を取り入れていけるよう、今後も取組みの動向に注意していきたいと思います。

 

質疑応答

その後の質疑応答では活発な議論がなされました。

特に次の話が印象的でした。

・町田市の事業別財務諸表について毎年ヒアリングをしているが、過去に比べ職員の意識の変化を感じる。職員が将来のことを考えるようになってきた。

町田市であれば、議員への説明のためと、誰に対して財務諸表を作成しているか明確である。

・誰のために作成しているかわからない状態であれば、財務諸表を作成する自治体職員にインセンティブが働かない。

・自治体の活用では、利用者のニーズが洗い出されていない。このような活用ができると先走っている。

・住民には評価する力がない。まずは自治体が評価し、公表できるようにならないといけない。

・一般の人にもわかりやすく伝えていき、このような情報が必要だという声を大きくしていく必要がある。

 

朝10時から夕方5時までの時間があっという間でした。

公会計に絞っているため、非常に有用な情報が得られた学会でした。

将来財務情報の推計という宿題をもらったので、ぜひこれについて研究を進めたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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